「ここまでわかる!胃カメラ・大腸カメラ・腹部エコー」シリーズ 第18回 潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎とは(どのような病気かを中心に解説しました)
潰瘍性大腸炎という病気は、かつて内閣総理大臣を務めた安倍晋三さんが患っていたことで広く知られるようになりました。
この病気は、本質的に「免疫の異常」が原因と考えられています。私たちの体には、ウイルスや細菌などの外敵を見つけて排除する「免疫」という防御システムが備わっています。白血球やリンパ球といった免疫細胞がその働きを担っていますが、時にこのシステムが誤って自分自身の体を攻撃してしまうことがあります。このような状態を自己免疫性疾患(あるいは膠原病)と呼び、関節リウマチなどがその代表例です。
潰瘍性大腸炎の場合、大腸の内腔側を覆う「粘膜」と呼ばれる部分に、免疫の誤作動によって強い炎症が生じます。炎症を起こした粘膜は腫れて赤くなり、表面には大小さまざまな傷ができます。その結果、腹痛・下痢・血便・発熱といった症状が現れます。
潰瘍性大腸炎でなぜ免疫が誤作動を起こすのか、詳しい仕組みはまだ解明されていません。多くの仮説が存在しますが、ここでは一例として私が以前在籍していた京都大学消化器内科学講座からの、「抗インテグリンαvβ6自己抗体が主要な原因ではないか」という仮説を紹介したいと思います(少し難しい話になります)。
インテグリンは接着分子と呼ばれるたんぱく質の一種であり、細胞を周囲の組織へと固定する役割を担っています。さらに単に固定しているだけではなく、細胞外からの情報を細胞内へと伝える役割も担っています。「抗インテグリンαvβ6自己抗体」は粘膜細胞と周囲組織との間の接着・情報伝達を阻害しますが、この結果として炎症が引き起こされるのではないかと疑われています。今後のさらなる研究により、潰瘍性大腸炎の病態が明らかにされるかもしれません。
潰瘍性大腸炎は、炎症が極めて強くなると命に関わることもあり、最悪の場合は大腸をすべて摘出して人工肛門を作らなければならないこともあります。また、長期間にわたって炎症が続くと、大腸癌を発症しやすくなることも知られています。こうした重い合併症を防ぎ、患者さんが健康な人と変わらない日常生活を送れるようにすることが、治療の大きな目標となります。
画像解説


Aは典型的な潰瘍性大腸炎の内視鏡像ですが、こちらを解説する前に、同じ患者さんの炎症が軽い部分の粘膜を見てみたいと思います。Bがその部分で、炎症粘膜と正常粘膜の境界付近を撮影しています。
Bの下側に見える粘膜は白色調で、血管(赤い線)が透けて見えていますが、この部分が正常粘膜です。上側の粘膜では炎症の結果粘膜は赤く腫れあがり、血管も見えにくくなっています。
Aでは炎症はさらに強くなり、血管は全く見えません。粘膜は著明に発赤していますが、表面に白い点がたくさん見えます。これは粘膜の強い炎症の結果溜まった膿を表しています。
より炎症が強くなると、画像Cのように粘膜が抉られたような傷(「びらん」や「潰瘍」と呼ばれます)が多発するようになります(A,Bとは別の患者さんの画像です)。画像DはCと同じ患者さんの治療後の粘膜です。同じ位置(直腸)の粘膜ですが、治療により炎症は消失し、血管も透けて見えるようになっています。


京都大学消化器内科学講座への寄付のお願い
上述した「抗インテグリンαvβ6自己抗体」の研究を行った塩川先生は、私が研究室に在籍していた頃、デスクが近いこともあり仲良くさせて頂いていた先生です。特に頼まれている訳ではないのですが、陰ながら応援したいと思い京都大学の寄付募集ページを紹介させてもらいます。
大学の研究室は常に予算不足に喘いでいます。研究は金喰い虫です。薄給で医学の進歩のために日々汗を流している研究者たちのために、少額でも良いので寄付をお願いします。
注意事項
注意事項1:本シリーズで取り上げる画像は全て当院で撮影したものです。検査画像の利用については、内視鏡検査前のアンケートで利用の可否を確認しています(腹部エコー検査に関してはオプトアウト方式をとっています)。
注意事項2:患者様の善意によって成り立つ投稿です。本シリーズは疾患の啓発や若手医師の研鑽に役立つことを目的としています。画像の無断利用、転載は固くお断りします。削除依頼に応じて頂けない場合は法的手段を取ります。