大腸カメラの『質』はどう評価すれば良い?~ポリープ発見率など当院の検査精度データを公開します~

1.目次

  1. 目次
  2. 大腸カメラの質は『数字』で評価できる時代になった
  3. 当院における「検査精度指標」と「検査を受けられた方の背景情報」のまとめ
  4. ADRとは「ポリープをどれだけ見けられるか」を表す指標
  5. SSLDRとは「見つけにくい特殊なポリープをどれだけ見つけられるか」を表す指標
  6. APCは「集中力を切らすことなく検査を完遂しているか」を表す指標
  7. 観察時間が長くなると、ADRも高くなる
  8. まとめ

2.大腸カメラの質は『数字』で評価できる時代になった

 大腸カメラを受けるなら、「精度の高い検査を受けたい」と思われる方が多いのではないでしょうか。

 しかし最近まで、自分が検査を受けようとしている医療機関の検査精度について、一般の方が知ることはなかなか難しかったと思います。

 多くの医療機関のホームページを見ても「内視鏡専門医が精度の高い検査を実施します」「最新の内視鏡を使用しています」といった説明が中心で、実際の検査精度の違いまでは分かりにくいことが大半だったのではないでしょうか。

 しかし現在では、大腸カメラの検査精度を数値化する方法がいくつか提唱されており、これらの指標が良好な医師による検査を受けた方が、大腸癌による死亡率が低くなることも示されています。

 中でも近年特に重視されているのが、「ADR(腺腫発見率)」と呼ばれる指標です。西宮の医療機関でも、このADRを公表している所が増えてきています。

 そこで今回の記事では、ADRを含めた精度を表す指標の意味や基準値について解説しつつ、当院における実際のデータも公表したいと思います。

3.当院における「検査精度指標」と「検査を受けられた方の背景情報」のまとめ

以下は2025年11月から2026年4月までの半年間の検査の集計です(この記事を執筆時点で最新のデータ)。

検査精度の指標としてADR、SSLDR、APC、観察時間を算出しました。それぞれの意味については後ほど詳しく解説していますが、一覧にまとめると以下のようになります。

各指標の名称各指標の日本語訳当院の成績米国における基準(注2)
ADR(注1)腺腫発見率55.9%>35%
SSLDR鋸歯状病変発見率10.2%>6%
APC検査あたりの腺腫数1.1個>0.6個
観察時間(抜去時間)11分(中央値)>8分

注1:便潜血陽性者を含む全患者に対するADR。詳細は「4.ADRとは『ポリープをどれだけ見付けられるか』を表す指標」を参照

注2:2024年時点での基準(原著論文へのリンクはこちら

その他、当院で内視鏡検査を受けられた患者さんの背景情報は以下のようになります。

男女比男性48% vs 女性52%
年齢中央値 57歳
便潜血陽性のため検査を受けた人の割合15%
過去にポリープを切除したことがある人の割合37%
鎮静剤を利用した人の割合96.1%

4.ADRとは「ポリープをどれだけ見つけられるか」を表す指標

 ADRはAdenoma Detection Rateの略であり、直訳するなら「腺腫発見率」となります。話を簡単にするため、ここでは「腺腫」=「ポリープ」と思ってください。

 ADRは「少なくとも1個以上の腺腫(ポリープ)が発見された検査数」÷「全検査数」によって求めることが出来ます。本来は施設ごとではなく、医師ごとに求める数値ですが、当院では全検査を院長自身が担当していますので、施設のADR=院長個人のADRになります。

 ADRは、ある医師の「ポリープを見落としなく見付けられる能力」を反映する指標であると考えられています。数値が高いほどポリープをしっかり発見できている可能性が高く、世界的にも特に重要視されている指標です。

 米国においては、2002 年の提唱当初はADR20%以上(男性25%以上・女性15%以上)が良好な数値とされていました。しかしその後、ADRを改善させる様々な取り組みが実施された結果、2024年の論文では35%以上が基準値となっています。

 注意するべきこととして、本来ADRを求める際には

  1. 50歳未満(または45歳未満)の患者さんは含めない(若年者ではポリープが見つかりにくく、ADRの値が低くなりやすいため)。
  2. 以前に検査を受けたことのある人は含めない。
  3. 便潜血陽性の人を除く(便潜血陽性者ではポリープが見つかりやすく、ADRの値が高くなりやすい)。

 などの除外項目を満たす必要があります。ただしこれらを全て考慮することは非常に手間がかかりますので、日本では便潜血検査結果に関係なく全検査を対象としていることが多いようです。当院ではADRの値を下げる要素である1,2は考慮せず、逆にADRを上げる要素である3のみ考慮して集計を行っています。結果は以下のようになりました。

便潜血陽性の方便潜血陰性・未検査の方全患者
ADR78.9%51.9%55.9%

 その他、男性が多い、肥満の方が多い、高齢者が多い、などもADRを高くする要因となりますので、単純にADRが低いからといって、その医師や施設の検査精度が低いと決めつけることはできないことにご注意ください。

5.SSLDRとは「見つけにくい特殊なポリープをどれだけ見つけられるか」を表す指標

 SSLDRとはSessile Serrated Lesion Detection Rateの略になります。直訳すると「鋸歯状病変発見率」です。鋸歯状病変(SSL:Sessile Serrated Lesion)は一般の方には少し分かりにくい病変ですが、以下のような特徴のある、特殊なポリープと考えてもらうとわかりやすいと思います。

 SSLの特徴

  1. 盛り上がりが小さく、ヒダに隠れやすい
  2. 周囲の正常粘膜に近い見た目をしている
  3. 癌化しやすい
  4. 大腸の奥側(右側)に多い

 特に特徴1と2のため、SSLは見つけにくいことが知られています。このような見つけにくい病変をしっかりと発見できているなら、その他の病変もしっかり発見できているはず、というのがSSLDRの考え方です。

 SSLDRは「少なくとも1個以上のSSLが発見された検査数」÷「全検査数」によって求めることが出来ます。数値が高いほどSSLを見つける能力が高いことになります。

 SSLDRの値はADRとある程度相関することが知られていますが、現在のところはADRとは独立して検査精度を表す指標であると考えられています。

 2024年の米国の論文によると、SSLDR6%以上が良好な検査精度を示す目安とされています。

 当院のSSLDRは10.2%という結果でした。

6.APCは「集中力を切らすことなく検査を完遂しているか」を表す指標

 APCとはAdenoma Per Colonoscopyの略です。直訳すると「大腸カメラ1回あたりの腺腫(ポリープ)数」になります。

 大腸がんや大腸ポリープを見つけた瞬間というのは、内視鏡検査医としては達成感や満足感を得やすい瞬間です。ただし、これに満足してそれ以外の場所の観察が不十分になってしまうと、大きな見落としにつながってしまいます。

 特に大腸ポリープは多発しやすいため、「1個あったらもう1個あるはず」という意識で検査をすることが重要です。

 しかしADRはポリープを1個見つけた場合も複数個見つけた場合も同じように扱うため、このような「1個ポリープを見つけた後も油断なくポリープを探しているか」という姿勢を評価することができません。

 このADRの欠点を補うために考案されたのがAPCであり「全検査で見つかったポリープ数の合計」÷「全検査数」によって求めることができます。

 以上から、APCが高いほど集中力を切らすことなく検査を完遂できている、と言えると思います。

 2024年の米国の論文によると、APC0.6個以上が良好な検査精度を示す目安とされており、当院のAPCは1.1個でした。

 ただしADRが高いとAPCも自然と高くなるため、APCはADRの質を評価する数値として、補完的に使うのが良いのではないかと思っています。

 なお、内視鏡領域では止血処置法の一つであるアルゴンプラズマ凝固法:Argon Plasma CoagulationもAPCと略します。「内視鏡」「APC」等の検索でここにたどり着いた方はお間違えのないように注意してください。

7.観察時間が長くなると、ADRも高くなる

 検査としての大腸カメラは2つのフェーズに分けることができます。

 大腸の最奥部まで内視鏡の先端を入れる「挿入フェーズ」

 と

 内視鏡を抜きながら病変を探す「観察フェーズ」

 です。

 実は「挿入フェーズ」は結構難しく、検査をはじめた若手医師が初めて奥まで入れられるようになるまで、数か月~半年程度はかかります。この間に苦労する若手が多いためか、「大腸内視鏡挿入法」を解説した本が何冊も売られており、私も実は3冊くらい持っています。かつて解説本を開いては、「全然こんな風にいかへんやん、どういうこと?」と嘆いたことも今となっては良い思い出です。

 さて、このように「挿入フェーズ」で苦労する医者が多いためか、挿入をどれだけスムーズに済ませたかについて拘っている医者は多いのですが、肝心の「観察フェーズ」について拘っている医者は意外と少なく、私はこれに常々疑問を感じていました。

 大腸検査の目的は癌やポリープのような病気を見つけることなのですから、真に拘るべきは「観察フェーズ」のはずです。挿入時間をストップウォッチで測って喜ぶのではなく、観察フェーズに十分に時間をかけられているかを気にするべきではないでしょうか?

 2006年には、観察フェーズに6分以上かけている医師では、ADRが高いことが報告されています。

 また日本国内のガイドラインにおいても、6分以上の時間をかけて観察することが推奨されています。

 さらにより時間をかけるほどADRが改善することが示されており、2024年には米国における観察フェーズの推奨時間は8分以上に延長されました。

 当院の観察時間の中央値は11分であり、推奨される観察時間を十分に満たしていました。

8.まとめ

 大腸カメラは「どこで受けても同じ検査」というわけではなく、検査精度には一定の差が存在します。

 近年ではADRやSSLDRなど、検査精度を客観的に評価するための指標が広く用いられるようになりつつあり、実際にこれらの数値が高い医師ほど、大腸癌による死亡率を低下させることも報告されています。

 当院でもこれらの指標を定期的に確認しながら、丁寧で質の高い検査を提供できるよう努めています。

 もちろん、大腸カメラの質は単純に数値だけで決まるものではありません。患者さんごとの背景や前処置、苦痛への配慮なども含め、総合的に良い検査を行うことが重要なのは言うまでもありません。

 しかし今回取り上げた指標の大きな利点は「客観性」です。医療従事者側の感覚や経験だけに頼るのではなく、客観的なデータをもとに検査精度を高め続けるために、これらの指標を活用することが重要であると感じています。

 大腸癌は早期発見・早期治療によって予防や治癒が期待できる病気です。検査をご検討中の方は、お気軽にご相談ください。