便潜血検査の結果が返ってきたら ~「陽性」「陰性」をどう読み解く?~

はじめに

 便潜血検査は、日本全国の健康診断や大腸がん検診で広く行われている検査です。

 多くの方が一度は受けたことのある身近な検査だと思いますが、その意味を十分に理解したうえで受けている方は、意外と多くないように感じます。

「健診の項目に入っているから、何となく受けている」という方も少なくないのではないでしょうか。

 では、もし便潜血検査で「陽性」と判定されたら、どうすればよいのでしょうか。反対に、「陰性」であれば本当に安心してよいのでしょうか。

 この記事では、便潜血検査の結果が返ってきたときに迷わないための指針となることを目指して、検査結果の意味と、その後にどのような行動をとるべきかを一般の方にも分かりやすく解説します。

 できるだけ具体的に、専門用語をかみ砕きながら説明しています。便潜血検査を受けたことのある方は、ぜひ一度ご覧ください。

目次

  1. 便潜血検査は何のために行う検査?
  2. 便潜血検査では、どのくらいの人が「陽性」になる?どのくらいの確率で癌が見つかる?
  3. 大腸カメラでは「がんになる可能性のあるポリープ」も見つかります
  4. 大腸がん検診が抱える2つの課題
  5. 便潜血検査が「陰性」だったら
  6. まとめ

1.便潜血検査は何のために行う検査?

 大腸がんでは、その表面からわずかに出血していることがあります。そこで、便の中に混じった微量の血液を検出することで、大腸がんの可能性を調べる検査として開発されたのが「便潜血検査」です。

 便潜血検査は便を採取するだけの比較的簡単な検査ですが、決して無力な検査ではありません。国立がん研究センターの「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン2024年度版」でも、便潜血検査による大腸がん検診には、大腸がん死亡率を減少させる効果があると評価されています。

 このように簡便かつ安価でありながら、科学的に有効性が証明されている検診方法であるため、便潜血検査は自治体の大腸がん検診をはじめ、職場健診や人間ドックなどでも広く実施されています。

 ただし、大腸の中で出血を起こす病気は大腸がんだけではありません。そのため、便潜血検査が陽性、つまり便の中に血液が混じっていると判定された場合でも、それだけで大腸がんと診断されるわけではありません。実際に大腸がんがあるかどうかを確認するためには、精密検査として大腸カメラを受ける必要があります。

 このように聞くと、

 「結局、大腸カメラを受けなければならないのなら、便潜血検査は無駄なのでは?」

 「最初から便潜血検査を受けずに、大腸カメラを受ければよいのでは?」

 と思われる方もいるかもしれません。

 しかし、大腸カメラにはそのデメリットとして、

  • 検査前に食事制限をしなければならない
  • 下剤の服用が必要(独特の味や量を負担に感じる方がいる)
  • 人によっては強い痛みを伴う
  • 費用負担が大きい
  • 出血や穿孔などの合併症のリスクもゼロではない

 などの問題が存在します。

 そのため、無症状の健診受診者全員に大腸カメラを行うことは、身体的な負担や費用などの面から現実的ではありません。

 そこで、まず負担の少ない便潜血検査を行い、その結果をもとに精密検査が必要な方を絞り込む方法が広く採用されています。

2.便潜血検査では、どのくらいの人が「陽性」になる?どのくらいの人に癌が見つかる?

 では、便潜血検査を受けると、実際にどれくらいの方が陽性になるのでしょうか。また、そのうち何人に大腸がんが見つかるのでしょうか?

 厚生労働省の「令和4年度 地域保健・健康増進事業報告」によると、2022年度に市町村の大腸がん検診を受けた方は約346万人で、そのうち約17.8万人が要精密検査となりました。

 つまり、およそ20人に1人(約5%)が便潜血陽性となっています。

 陽性となった方には大腸カメラが勧められますが、実際に内視鏡検査を受けた方は約12.5万人で、要精密検査となった方の約7割でした。

 そして、精密検査を受けた方のうち5,314人に大腸がんが見つかっています。割合にすると、精密検査(大腸カメラ)を受けた人のうち、およそ4%、約25人に1人です。

 以上のように、便潜血陽性だからといって、大腸がんと決まったわけではありません。しかし、精密検査を受けた方の約25人に1人から大腸がんが見つかっていることを考えると、決して軽視できる割合ではありません。

 「症状がないから大丈夫だろう」と自己判断せず、大腸カメラを受けることが大切です。

3.大腸カメラでは「がんになる可能性のあるポリープ」も見つかります

 しかしそれでも「やっぱり大腸カメラは受けたくない」という方もおられるかもしれません。

 そんな方にもう一つ、「大腸カメラを受けるべき」という、当院独自のデータをお示ししたいと思います。

 実は、大腸カメラの目的は、すでに存在している大腸がんを発見することだけではありません。

 大腸カメラを受けることには、将来の大腸がんを予防する、という目的もあるのです。

 どういうこと?と思われたかもしれませんので、順に説明します。

 大腸がんの多くは、大腸ポリープから発生します。

 そのため、このような「将来的にがんになるリスクの高い病変」であるポリープを早期に発見し、がんになる前に切除することも、大腸カメラの重要な役割なのです。

 がんになる前に治療することで、がんを予防しようという考え方です。

 2025年11月から2026年4月までの半年間に、便潜血陽性をきっかけに当院で大腸カメラを受けられた方を調べると、78.9%の方に、大腸がんになる可能性のあるポリープ(専門的には「腺腫」や「SSL」などと呼ばれるもの)が見つかっていました。もちろん、すべてのポリープは切除しています。

 以上の結果から、便潜血検査が陽性となって受ける大腸カメラには、大腸がんを見つけるという役割だけではなく、将来的な大腸がんを予防するといった役割もあると、私は考えています。

4.大腸がん検診が抱える2つの課題

課題① 陽性でも精密検査を受けない方がいる

 便潜血検査で陽性となった方のうち、実際に大腸カメラによる精密検査を受けているのは約7割です。裏を返せば、約3割の方は、便潜血検査で異常を指摘されながらも大腸カメラを受けていないことになります。

 大腸がんは、早期の段階ではほとんど症状がないことも珍しくありません。「腹痛もない」「便通も普通だから大丈夫だろう」と考えて精密検査を受けずにいると、せっかく便潜血検査で異常を捉えられたにもかかわらず、大腸がんを早期に発見できる貴重な機会を逃してしまう可能性があります。

 実際、大腸カメラを受けた方からは一定の割合で大腸がんが見つかっています。検査を受けていない3割の方の中にも、同程度の割合で大腸がんが潜んでいる可能性は当然考えられます。

 つまり、便潜血検査は「陽性」という結果が出ただけでは、その役割を十分に果たしたことにはなりません。陽性をきっかけに大腸カメラを受け、初めて大腸がんの早期発見につなげることができます。

 便潜血検査で一度でも陽性となった場合は、症状の有無にかかわらず、大腸カメラによる精密検査を受けることが推奨されます。

課題② 便潜血検査そのものを受けていない方も多い

 もう一つの大きな課題は、大腸がん検診そのものの受診率の低さです。

 大腸がん検診は、大腸がんのリスクが高まり始める40歳以上の方を対象として行われています。しかし、2022年の国民生活基礎調査によると、40~69歳における大腸がん検診の受診率は40~50%程度にとどまっています。

 大腸がんは、早期には症状がほとんどないことも珍しくありません。そのため、症状が出てから受診するのではなく、検診によって早期発見の機会をつくることが重要です。

 検診を受ける方が増えれば、それだけ多くの大腸がんを早い段階で発見できる可能性が高まります。早期に発見され、適切な治療につながる方が増えることは、個人にとってのメリットだけでなく、社会全体として大腸がんによる死亡を減らしていくことにもつながります。

 便潜血検査は、自宅で便を採取するだけで受けられる、比較的負担の少ない検査です。40歳を過ぎたら、毎年の便潜血検査を受けることが大腸がん対策の基本となります。

 まだ受けたことがない方や、しばらく検診を受けていない方は、お住まいの自治体や勤務先の健診案内を一度確認してみてください。

 西宮市の大腸がん検診としての便潜血検査であれば、当院で受けていただくことも出来ます。

5.便潜血検査が「陰性」だったら

 便潜血検査が陰性であれば、大腸がんの可能性は低くなります。ただし、陰性だからといって大腸がんを100%否定できるわけではありません。

 国立がん研究センターのガイドラインでは、免疫便潜血検査による大腸がん検出の感度は約84%と報告されています。つまり、大腸がんがあっても便潜血検査では陰性になるケースが16%ほどあります。

 これは、大腸がんから常に出血しているわけではないためです。また、ポリープについては、がん以上に便潜血検査では捉えにくい場合があります。

 そのため、

  • 血便がある
  • 便が細くなった
  • 便秘や下痢など便通の変化が続く
  • 貧血を指摘された
  • 原因不明の体重減少がある

 といった症状がある場合には、便潜血検査が陰性であっても医療機関を受診してください。

 症状がない場合であっても、その後も毎年の便潜血検査を継続することが基本です。

 一方、40歳を過ぎてこれまで一度も大腸カメラを受けたことがない方や、大腸がん・大腸ポリープの家族歴がある方などでは、便潜血検査が陰性であっても、一度大腸カメラについて医師に相談してみるのもよいでしょう。

6.まとめ

 便潜血検査は、手軽に受けられる一方で、大腸がんを早期に発見するために非常に重要な検査です。

 結果が「陽性」であっても、必ず大腸がんがあるというわけではありません。しかし、実際に一定の割合で大腸がんや、将来がんにつながる可能性のあるポリープが見つかります。

 そのため、一度でも陽性となった場合には、自己判断で放置したり、便潜血検査をやり直したりせず、大腸カメラによる精密検査を受けることが大切です。

 一方、「陰性」であれば大腸がんの可能性は低くなりますが、完全に否定できるわけではありません。症状がある場合には陰性でも医療機関を受診し、症状がない場合にも毎年の便潜血検査を継続しましょう。

 便潜血検査は、

「陽性なら大腸カメラへ進む」
「陰性であっても毎年検査を続ける」

 という使い方が基本です。

 大腸がんは早期には症状がないことも多い病気です。検診の結果を適切に活用し、必要な場合には精密検査につなげることが、早期発見・早期治療のために重要です。