子宮頸がんワクチンの接種スケジュールとキャッチアップ接種の締め切りについて

目次

1.まず結論から

2.そもそも子宮頸がんワクチンとは

3.ワクチンはいつ打つべきか?(定期接種の考え方)

4.17歳以上で接種しても大丈夫?(キャッチアップ接種の考え方)

5.ワクチン(シルガード)の接種スケジュールとキャッチアップ接種の締め切りについて

6.副反応が怖いと聞いたことがあるけれど

7.各種リンク

1.まず結論から

つい最近まで私もよく理解できておらず、医療現場でも混乱が残っているのですが、子宮頸がんワクチンのキャッチアップ接種は11月後半(当院の場合は11月27日)までの開始で3回とも公費で受けることが可能です。

以下ではなぜそのようなことになっているのか、シルガード(いくつかあるワクチンのうち現状最もよく使用されているもの)を中心に定期接種とキャッチアップ接種の現状を踏まえて解説します。

2.そもそも子宮頸がんワクチンとは

シルガードは、「ヒトパピローマウイルス(HPV)」の感染を予防するためのワクチンです。ヒトパピローマウイルスにはいくつかの種類があり、それぞれに異なる毒性を持っています。特に毒性が高い種類に感染すると、20代や30代で子宮頸がんを発症することがあるため、世界的にワクチン接種が推奨されています。

すべてのヒトパピローマウイルスは性交渉によって感染します。そのため、性交渉の経験が乏しいうち(出来れば経験前)、つまり感染する前にワクチンを接種することが大切です。このワクチンは感染を予防する効果はありますが、いったん感染したウイルスを排除する効果はないからです。

このワクチンを接種すると子宮頸がんになるリスクが80~90%ほど減少することが確認されています。非常に高い予防効果があると言えるでしょう。また、欧米では多くの子どもがワクチンを接種しているため、ヒトパピローマウイルスの感染率も大幅に減少しているようです。

国内外の大規模な調査結果によると、このワクチンで重篤な副反応が起きることは非常に稀です。よく見られる副反応としては、注射部位の痛みや腫れ、頭痛、発熱などがありますが、これらは通常2~3日以内に自然に治まります。

一時期、ワクチンとの関連が疑われた不随意運動や全身の強い痛みなどの症状については、本記事の最後で触れています。ただし、私を含む多くの医師は、これらの症状とワクチンの間に関連はないと考えています。

3.ワクチンはいつ打つべきか?(定期接種の考え方)

前述のように子宮頸がんワクチンは、ウイルスに感染する前に接種する必要があります。

しかし、早ければ早いほど良いというわけではありません。というのも、ワクチンの効果は時間とともに少しずつ低下するためです。そのため、感染のリスクが高くなる時期を十分にカバーできる範囲で、できるだけ早めにワクチンを接種するのが望ましいとされています。

現在の研究によれば、子宮頸がんワクチンの効果は少なくとも14年間は高いレベルで保たれることがわかっています(これは「ガーダシル」というワクチンに基づくデータですが、「シルガード」も同様の効果があると考えられています)。このため、現在の日本では、12歳から16歳の女子を対象に子宮頸がんワクチンを接種しています(正確には12歳となる年度から16歳となる年度の末日までが対象)。この年齢であれば、まだヒトパピローマウイルスに感染している可能性は低く、ワクチンの効果も少なくとも26歳から30歳頃まで続くと考えられるからです(ただし、30歳になったからといって効果が完全になくなるわけではありません)。

また、ワクチンを接種するかどうかは自分で決める権利があるという考え方もあります。可能であれば、自分で判断できる年齢になってから接種するのが理想的です。中学生くらいの女子であればある程度自分の意見を持つことができるため、親と相談しながら接種するかどうかを決めることができる、というのもこの年齢が選ばれた根拠の一つです。

この12歳から16歳の女子を対象としたワクチン接種は「定期接種」と呼ばれ、費用は公的に補助されています。2024年現在、西宮市をはじめ多くの自治体でワクチン接種は無料となっています(もし自費で接種する場合、シルガードであれば合計で8万円以上かかることが一般的です)。

4.17歳以上で接種しても大丈夫?(キャッチアップ接種の考え方)

ワクチンが子宮頸がんを予防する効果は16歳以下での接種が最も高いとされていますが、以降の年齢でも高い効果があることがわかっています。具体的な数値を挙げると17~30歳で接種した場合も子宮頸がんになるリスクは53%低下するとされています。また、性交経験がない場合は、さらに年齢が上がってもある程度の効果が期待できます。45歳くらいまでは子宮頸がんのリスクを下げる効果が続くとする報告もあります。

以上より、17歳以上であってもワクチン接種は有効です。

また、現在17歳以上の方の中には、過去に厚生労働省が積極的な接種の推奨を控えていたため、定期接種を受けられる機会を逃した方も多くいます。

こうした方々を救済するために、平成9年度から平成19年度生まれ(1997年4月2日~2008年4月1日生まれ)の女性を対象に、無料でワクチン接種が受けられる「キャッチアップ接種」という制度が実施されています。

これは非常にありがたい制度ですが、2025年3月31日をもって終了予定です。自費で打つには高額なワクチンですので、この機会を活用してぜひワクチン接種を完了していただきたいと思います。

5.ワクチン(シルガード)の接種スケジュールとキャッチアップ接種の締め切りについて

もともと、シルガードの標準的な接種スケジュールは、1回目接種の2カ月後に2回目、さらにその4カ月後(1回目から6カ月後)に3回目を接種するという「3回接種法」でした。しかし、15歳未満を対象とした最近の研究で、1回目接種の5~6カ月後に2回目を打つ「2回接種法」でも、3回接種法と同じ効果が得られることがわかりました。このため、現在は15歳未満で接種を開始する場合、2回の接種で済むようになっています。

ただし、15歳以上では2回接種法の効果が確認されていないため、定期接種もキャッチアップ接種も3回接種が必要です。このうちキャッチアップ接種の期限は、2025年3月31日ですので、標準的なスケジュールでは2024年9月30日までに接種を開始する必要があるとされていました。

ただ、厚労省の通知の注意書きに、事情により6カ月間で接種を完了できない場合には1回目と2回目の接種間隔は1カ月まで、2回目と3回目の接種間隔は3カ月まで短縮してもよいと書かれており、実は最短4カ月で接種を完了させることも出来ます。この通知がわかりにくい書き方であったため医療現場も混乱しがちで、現在でもインターネット上では接種完了までに必ず6ヵ月かかるとする記事が多数見られます。確かに出来るなら6ヵ月かけて接種を受けることを私もお勧めしますが、必要に応じて短縮しても問題ありません。西宮市の窓口にも電話で確認をしましたが、短縮して打った場合も全て公費の対象となるとの回答でした。

このため、キャッチアップ接種を開始可能な期限は、従来考えられていた2024年9月30日よりもかなり後になります。以下で逆算してみましょう。

2025年3月31日までに3回目の接種を終えるには、2回目の接種を2024年12月31日までに完了させる必要があります。ただし、年末年始は多くの医療機関が休業しているため、実際にはその日に接種することは難しいでしょう。たとえば、当院の場合、年末の最終営業日は12月27日ですので、この日までに2回目のワクチンを接種しておく必要があります。

さらに逆算すると、1回目の接種は11月27日までに終える必要があります。

つまり3回全ての接種を公費(無料)で受けるための締め切りは、当院の場合は2024年11月27日になります。ただし非常にタイトなスケジュールですので、どこかで1日でも予定が崩れると、3回目の接種は公費で受けられなくなることにご注意ください。

一方、1回目の接種が11月27日を過ぎた場合でも、2025年3月31日までの接種は公費で受けられますが、2回目や3回目の接種が2025年4月1日以降になった場合は、自費(全額自己負担)となります。

6.副反応が怖いと聞いたことがあるけれど

一時期、ワクチン接種後に不随意運動や全身の強い痛みなどの症状が出るのではないかという疑惑がマスコミで大きく取り上げられました。その結果、厚生労働省は薬害訴訟を恐れ、慎重な対応として「積極的な接種勧奨」を中止しました。この影響で、日本では子宮頸がんワクチンの接種率が大幅に低下しました。あまりに劇的に低下したので、反ワクチン運動に先進国の政府が屈した驚くべき例として海外で報道されたこともあります。

しかし当時から、ワクチンと「副反応とされる症状」との因果関係については多くの専門家が疑問を持っていました。その後の科学的研究によって、現在ではワクチンがこれらの重い症状の原因である可能性はほぼ否定されています(「ほぼ」と表現するのは、科学的に100%因果関係を否定するのが不可能だからです)。

例えば名古屋市が行った7万人の女性を対象にした匿名の郵便アンケート調査では、3万人からの回答をもとにワクチン接種と関連が疑われた24の症状について調査されました。ワクチン反対派の予想に反し、ワクチン接種とこれらの症状との間には統計的に有意な関連は見られませんでした。つまり、ワクチンを打った人と打っていない人との間で、これらの症状の発生頻度はほぼ同じだったということです。統計学的には、これが「因果関係がない」とされる根拠となります。同様の報告は他にも多くあります。

現在では、不随意運動や全身の痛みなどの症状は、ストレスが関連する「機能性身体症状」の一種と考えられています。マスコミには、当時の反ワクチンキャンペーンに対する十分な検証と反省を期待したいところです。

国も疑惑が生じた時点で一旦ワクチン接種にストップをかけること自体は悪くなかったと思いますが、もっと早くに接種を再開できたはずです。それによって子宮頸がんに苦しめられる患者を大幅に減らすことが出来たと思うのです。

これらの経緯についてもっと詳しく知りたい方は、村中璃子先生の著作『10万個の子宮』を読むことをお勧めします。検索すればAMAZONですぐに購入できます。私も一冊持っています。

7.各種リンク

西宮市のホームページ

厚生労働省のホームページ

MSD製薬による特設サイト