シリーズ「癌とは」-①はじめに

 

「癌がどんな病気か、ご自身の言葉で説明できますか?」

 

私が病院で働いていた頃、こんな質問を何人かの患者さんにしてみたことがあります。

当初の私の予想は、半分弱ぐらいの方がそれなりの知識を持っておられるだろうというものでした。

しかし驚くべきことに、実際にはこの質問に的確な答えを返せる方は一人もいませんでした。

学歴や社会的地位に関わらず、癌という病気を正しく理解できている人は一人もいなかったのです。

 

いまや日本人の2人に1人が癌になると言われている時代です。

にも関わらず、癌についての正しい知識は全く広がっていないのです。

癌医療に携わる人間の一人として、この事実に強い衝撃を受けたことをよく覚えています。

 

敵を知り己を知れば百戦危うからず、とは孫子の言葉ですが、癌はみなさん自身やみなさんの身近な人の将来に立ちふさがる可能性が非常に高い敵と言えます。

将来に備えて、私達はその敵について十分な知識を持っておく必要があるのではないでしょうか?

 

とは言え、最近では癌に対する不正確な情報がメディアの種類を問わず溢れており問題となっています。

癌患者さんやその家族に法外な金銭を要求する詐欺的な民間療法の広告も多く目にします。冷静な第三者から見れば明らかに効果の疑わしい治療法ですら、インターネット上では礼賛されていることがあります。

このような状況では、いったい何を信じて情報を集めれば良いのか困っている方も多いのではないでしょうか。

 

そこで本シリーズでは、癌についての正しい情報を、出来るだけ簡単な言葉で発信したいと思います。

さらにその内容は、みなさんが知っているようで知らない、基礎的なものを中心にしたいと思っています。

言い換えれば私がここで説明したいのは、主治医の説明を理解する際の前提となる知識です。あるいは、みなさんを食い物にしようとする詐欺療法に引っかからないために必要な知識です。

しばしば医者が、患者さんが知っていて当然と考えて説明を飛ばしてしまうような内容を中心にお伝えしたいと思います。

これから私がお届けするいくつかの記事が、癌について学ぶための「最初の教科書」になれればと願っています。

 

最後に、私自身について少しだけ紹介しておきます。どんな人間の言葉か分からなければ、その内容を信用できないと思うからです。

私は平成17年に京都大学医学部を卒業し医師としてのキャリアをスタートさせました。

以後、京都大学医学部附属病院をはじめとした地域の基幹病院を中心に、消化器内科医として働いてきました。

この記事を執筆時点での医師としてのキャリアは卒後19年目になります。病院勤務では中堅と呼ばれることの多い年代です。

消化器内科についてご存知ない方もおられるかもしれませんが、この診療科はお腹を中心に全身を広く診ている科です。

そして同時に最も多くの癌を診ている科でもあります。

食道癌、胃癌、肝臓癌、胆嚢癌、胆管癌、膵臓癌、大腸癌、これらは全て消化器内科医が診療を担当しています。

ですので、自然と私も癌のスペシャリストとして成長しました。(今は色々あって西宮で開業医をしており、癌治療の一線からは身を引いていますが、、、)

私が20年弱の医師生活の中で身に着けた「癌とはどんな病気か」という問いに対する答えを、ぜひ受け取って下さい。