受験生応援!インフルエンザ予防プロジェクトについて

*通常のインフルエンザワクチン接種は1回3000円で実施しています(R5年度)。

本プロジェクト開始の経緯

当院開院後初めて迎えた冬である令和4年度冬季には数年ぶりにインフルエンザウイルスの流行が見られました。

この際、特に気になったのは1、2月の受験シーズンに感染してしまった子供達のことです。ご本人、ご両親ともに試験当日が隔離期間に入ってしまうことを聞いて大きなショックを受けておられました。

私も3人の子供の親として子供たちの受験を見守ってきましたので、その気持ちは非常によくわかりました。

どうにかしてこのような悲劇を減らせないか、と考えたのが本プロジェクトの出発点です。

インフルエンザを予防する3つの方法

インフルエンザを予防する方法は3つあります。

1つ目の方法は新型コロナウイルス流行時にも指摘されていた「行動様式の変化」です。マスクを着用し、手洗いを心掛け、人込みを避けて行動することで、ウイルスへの暴露を避け感染のリスクを減らすことが出来ます。最も簡便でコストのかからない方法ですが、効果は限定的です。

2つ目の方法はワクチンを接種することです。ただしこれまでにワクチンを接種したにも関わらずインフルエンザに感染したことがあるという人も多いのではないでしょうか。実際に高齢者に対する発症予防効果は34~55%程度と報告されています。ワクチンの重症化予防効果はかなり高いのですが、発症予防効果は心もとないと言わざるを得ません。

3つ目の方法は、医療現場(特に入院病棟など)で感染者が出た際に用いられる方法です。インフルエンザ患者さんと濃厚に接触したことが明らかになった場合、抗インフルエンザ薬(主にタミフル)を1日1回1錠(常用量の半量)10日間内服するというものです。医療機関によっては3日や7日ほどに短縮していることもあります。こちらに関しては海外からの報告では72-82%の発症予防効果が、日本国内からの報告では90%を越える発症予防効果が報告されています。日本からの報告で予防効果が高い理由は不明ですが、対象の多くを占める医療従事者のインフルエンザワクチン接種率が高いことが影響しているのかもしれません。予防投与の根拠となる報告を下に列挙します。

  • 日本感染症学会提言2012「インフルエンザ院内感染対策の考え方について(高齢者施設を含めて)」
  • Ishiguro N, et al. : Three day regimen of oseltamivir for postexposure prophylaxis of influenza in wards. J Hosp Infect 2016; 94: 150-3
  • Hagihara M, et al. : The prophylactic effect of anti-influenza agents for an influenza outbreak in a University Hospital. Intern Med 2018; 57: 497-501
  • Hayden FG, et al. : Use of the selective oral neuraminidase inhibitor oseltamivir to prevent influenza. N Engl J Med 1999; 341: 1336-43
  • Welliver R, et al. : Effectiveness of oseltamivir in preventing influenza in household contacts: a randomized controlled trial. JAMA 2001; 285: 748-54
  • 工藤結香 他、当院における抗インフルエンザ薬の暴露後予防投与効果の検討-オセルタミビル3日間投与の有効性について 環境感染誌 2019; 34(3): 155-61

インフルエンザ予防プロジェクトの具体的な内容

以上を踏まえ、受験生のインフルエンザ感染を予防するため、当院ではワクチンとタミフル予防内服の併用をお勧めします。具体的な内容は以下の通りです。

  1. 対象者は今年度に中学、高校、大学を受験予定の方です。
  2. 予約受付は9月初めの当院営業日から開始します。ワクチン・タミフルの在庫確認のため、必ず電話での予約をお願いします。当院で確保しているワクチン・タミフルの在庫がなくなり次第終了となります。
  3. 入試開始の1カ月前までに(2~3カ月前を推奨)インフルエンザワクチンを少なくとも1回接種します。基本的には1回で十分ですが、13歳未満の方などで2回接種を希望する場合は1カ月程度の間隔をあけて2回接種を実施することも可能です。この場合は3カ月前と2カ月前に接種することをお勧めします。
  4. 入試最終日の10日前からタミフル1錠を朝食後にお飲みください。タミフルはワクチン接種時にお渡しします。常温で保存可能です(冷蔵庫などの冷所でも構いません)。試験日程が2つ以上に分かれている場合は別途ご相談ください。
  5. 費用はワクチン1回接種、タミフル10日間内服の場合で1万円です。ワクチン接種時にまとめてお支払い頂きます。(ワクチン2回接種とした場合には3000円追加、タミフル投与期間が10日増えるごとにも3000円追加となります)

タミフルの副作用について

以下に添付文書において0.1%以上の頻度で生じうるとされている副作用を列挙します。

  • 下痢(0.9%)、腹痛(0.6%)、悪心(0.5%)、嘔吐
  • 発疹
  • めまい、頭痛、不眠
  • 軽度の肝機能障害
  • タンパク尿
  • 低体温
  • 好酸球増多

ただしこれらの症状がタミフルによるものなのか、インフルエンザ自体によるものなのか、あるいは同時に内服した解熱剤等によるものなのか、見分けることは困難です。

実際のところ副作用の頻度は極めて低いと考えられますが、万が一副作用が見られた場合は健康保険を利用して必要な治療を受けて頂けます。副作用を疑う場合は直ちに内服を中止し、当院までご相談ください。

タミフルと異常行動について

タミフル内服後に異常行動(急に走り出す、高い所から飛び降りる)をとった子供の例がテレビで放送されたことがあり、タミフルの副作用ではないかと話題になりました。

しかしその後の調査により、10代の子供でタミフル服用中に異常行動を起こす頻度は100万処方あたり6.5人、リレンザ服用中で4.8人、イナビル服用中で3.7人、いずれの抗ウイルス薬も服用していない子供で8.9人とされており、タミフルの内服に関わらず異常行動は見られています。

このため、これらの異常行動は薬によるものではなくインフルエンザ自体による症状である可能性が高いと現在では考えられています。

インフルエンザを発症した場合、発熱から2日以内に、女児よりも男児で、特に睡眠から目が覚めてすぐに異常行動を起こしやすいとされています

医薬品副作用救済制度について

適正に医薬品を使用していたにも関わらず、その副作用により入院治療が必要になるほど重篤な健康被害が生じた場合、医療費や年金などの給付を行う制度を医薬品副作用救済制度と呼びます。

ただしこの場合の「適正」とは添付文書に書かれた通りの使用方法を指しますので、本プロジェクトによる薬品の使用はこの制度の適応外です。

当院の免責について

本プロジェクトはインフルエンザ感染のリスクを可能な限り低下させるものですが、感染しないことを保証するものではありません。特にタミフル耐性ウイルス(A/H1N1型など)が流行した場合には本プロジェクトで感染を予防することは困難です。また、医薬品には一定の頻度でアレルギー等の副作用が生じる危険性があります。

したがって本プロジェクトに参加していてもインフルエンザに感染してしまった場合や、本プロジェクトに使用する医薬品により副作用が生じた場合も、当院は一切の責任を負いません(もちろんそれらに対する治療は健康保険の範疇でしっかりと実施させて頂きます)。また、いかなる理由であっても医薬品の返品や返金には応じられません。

以上を踏まえ、本プロジェクトへの参加はご自身の責任でお願いします。

さらに本プロジェクトへの参加にあたっては、本記事に記載の内容を確認する同意書にサインをして頂く必要がありますのでご了承ください。

本プロジェクトの有効性評価について

本プロジェクト参加時にご案内するフォームより、有効性(インフルエンザに感染せずに済んだか)、副作用の有無、満足度などを調査させて頂きます。

差し支えなければ受験終了後にご回答をお願いします。

集計結果はこちらのブログで公表予定です。