インフルエンザの症状・検査・治療のポイント1~症状編~

目次

  1. はじめに
  2. 症状からインフルエンザを診断することは可能か?
  3. スコアによるインフルエンザの判定
  4. インフルエンザ濾胞の存在は、インフルエンザ流行期において診断の助けとなる
  5. 新型コロナウイルスの流行により、症状による診断は難しくなっている

1.はじめに

久しぶりにインフルエンザが流行しています 。

2023年10月後半の当院発熱外来におけるインフルエンザ陽性率は約38%でした。

新型コロナウイルスの流行が落ち着きつつある中、ついにインフルエンザの陽性率が新型コロナウイルスの陽性率(23%)を上回り、本格的なインフルエンザの流行が始まった印象です。

そこでこれを機に、インフルエンザの診断と治療についてまとめてみました。内容的には一般の方から医学生・研修医などに役立つものになるように心がけています。

思ったよりも長くなったので、症状編・検査編・治療編(前編・後編)の4つに分けてお届けしようと思います。

それでは、まずは症状編です。

2.症状からインフルエンザを診断することは可能か?

みなさんご存知のように、インフルエンザは通常の風邪と比較すると、咳・鼻水・喉の痛みなどの上気道の症状が軽く、発熱・筋肉痛・関節痛・倦怠感などの全身症状が強いという特徴があります。

このため、みなさんも一度くらいは、冬に高熱が出たためにインフルエンザを疑った経験があるのではないでしょうか?

しかし実際のところ、インフルエンザ以外にも高熱がでる病気はたくさんあります。ご自身でインフルエンザを疑って来院された方が実は細菌性肺炎だった、ということもよくあります。ですので、熱が高いというだけではインフルエンザを疑う根拠としては不十分です。

では、どんな時にインフルエンザを疑えばいいのでしょうか?

実は私達医師もインフルエンザとそれ以外の病気をどのように見分けるべきか、長く悩んできました。このため、どんな症状がそろっていたら、あるいはどんな所見があればインフルエンザの可能性が高いのか、明らかにした論文が昔から多数発表されています。

今回はその中でも比較的有名な「診断スコア」を1つと、インフルエンザに特徴的な「所見」を一つ紹介しようと思います。

3.スコアによるインフルエンザの判定

最初に報告するのは、海外から報告された診断用スコアです。

4つの症状それぞれに1点ないし2点の点数がついており、合計点からインフルエンザの可能性を3段階に分類することが出来ます。項目が少なく簡便であり、臨床現場でも使用しやすいものになっています。

実際のスコアは以下の4項目からなります。

  • 1点:急性発症(最初に異常を感じてから、高熱が出るまでの期間が48時間以内)
  • 1点:悪寒または発汗がある
  • 2点:筋肉痛がある
  • 2点:37.8度以上の発熱と咳が両方ともある

論文上は急性発症の定義についての記載がなかったのですが、ニュアンス的には上記の意味で良いと思います(誰か知っていたら教えて下さい)。

 このスコアで合計点が2点以下ならインフルエンザの可能性は10%以下、3点なら10-50%未満、4点以上なら50%以上です。

医療現場では2点以下ならインフルエンザ抗原検査は不要、3点の時は抗原検査を実施して結果に従う、4点以上でインフルエンザ重症化リスクの高い人には検査をせずにタミフルなどを処方する、といった応用がなされていました。

ただしこのスコアを利用するにあたっては注意点が3つほどあります。

第一に作成の元となった患者さんは「成人」に限られており、子供にも有用であるかは不明です。

第二にインフルエンザの流行期に研究は実施されていまので、インフルエンザの非流行期(例えば夏など)にこのスコアを利用しても正しい判定は出来ません。

最後にこのスコアは新型コロナウイルス流行前に作成されたものです。新型コロナウイルスに感染した際の症状はインフルエンザに類似することがありますので、現在もこのスコアが有用かどうかは不明です。

スコアを利用する際にはこれら3つの注意点を十分理解したうえで、地域におけるインフルエンザや新型コロナウイルスの流行状況を加味しながら判断する必要があります。

4.インフルエンザ濾胞の存在は、インフルエンザ流行期において診断の助けとなる

また、日本からはインフルエンザに特徴的な咽頭所見として「インフルエンザ濾胞」の存在が報告されています。

これは喉の奥にイクラ状のブツブツが見える場合はインフルエンザの可能性が高い、とするものです。発表された時には一躍脚光を浴びた所見ですが、残念ながらインフルエンザ以外のウイルス感染(アデノウイルス、エコーウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど)でもこの所見が見られることが現在は分かっています。

特に直近では小児においてアデノウイルスとインフルエンザが同時流行しており、この所見だけからインフルエンザと診断するのは危険かもしれません。

しかしだからと言って役に立たないわけではなく、インフルエンザが流行し、かつその他のウイルスがあまり流行していない時には非常に役に立つ所見です。

5.新型コロナウイルスの流行により、症状による診断は難しくなっている

このように偉大な先人達によって、検査キットを使用せずにインフルエンザを診断する様々な方法が考案されてきました。

私も医者になってすぐの頃にこれらの方法を一生懸命学びました。

しかし、今や新型コロナウイルスが流行するようになりました。

先にも述べたように新型コロナウイルスの症状はインフルエンザと類似することも多く、現時点では上記スコアや所見はあまり当てにならなくなっています。

インフルエンザや新型コロナウイルスの検査対象者をどうやって選ぶのかは多くの医療機関が頭を悩ませている問題で、今後の研究が待たれるところです。

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