インフルエンザの症状・検査・治療のポイント3~治療編(前編)~
目次
1.はじめに
症状編、検査編、に続き今回は治療編をお届けします。
それぞれ独立した内容ですのでこの治療編から読んで頂いても大丈夫ですが、症状編や検査編を先に読みたい方は末尾のリンクからどうぞ。
今回のシリーズはこの投稿で完結する予定だったのですが、書いているうちにドンドン長くなってしまったので、治療の全体像を扱ったこちらの前編と抗インフルエンザ薬に焦点を絞った後編とにわけて投稿します。
それでは前編です。
2.まずは自分に重症化リスクがあるのか知る
インフルエンザのような周囲の人にうつす可能性のある病気にかかった時、考えなければならないのは2つです。
「自分自身への影響」と「周囲への影響」です。
まずここでは、あなた自身にどのような影響があるのか考えてみましょう。
インフルエンザに罹患した場合、多くの人は高熱や倦怠感などの症状が強く出るものの、1週間以内に軽快します。しかし稀に肺炎や脳炎などの合併症を生じることがあり、ひどい場合には死亡することすらあります。
健康な成人がそのように重症化することは非常に稀ですが、世の中にはインフルエンザに罹った場合に重症化しやすい人が一定数おられます。そのような人達のことを医学的には「高リスク群」と呼びます。
そこでまずは自分が高リスク群に当てはまるか(重症化するリスクがあるのか)どうかを確認しましょう。以下のような人達が高リスク群に分類されます。
- 妊娠中の方
- 6か月から5歳未満の小児
- 65歳以上の高齢者
- 慢性疾患(慢性心疾患、肺疾患、腎疾患、糖尿病、肝硬変など)のある方
- 免疫抑制状態(悪性腫瘍、抗がん剤または免疫抑制薬(ステロイド含む)投与中、HIVなど)にある方
高リスク群にあてはまる方は必ず医療機関を受診し、治療を受けるようにして下さい。
特に先進国における死亡のほとんどは65歳以上の高齢者で発生しているため、高齢の方は「これまで大丈夫だったから今回も大丈夫」と考えず、冬に高熱を認めた場合は必ず医療機関に相談をしてください。
また、逆に言うと高リスク群にあてはまらない人にとっては家で寝ているだけでも1週間程度で良くなる病気ですので(通常の風邪よりもかなりしんどいのは事実ですが)、インフルエンザを過度に恐れる必要はありません。
3.周囲の人への影響を考える
インフルエンザは発症の前日から3~7日後まで周囲の人へうつす可能性(感染性)があり、なかでも発症後4日間が最も感染性が高いと考えられています。一般的に解熱とともにウイルス量は大きく低下し、感染性は落ちます。
これを受けて学校保健法では発症後5日、かつ解熱後48時間以内は出席停止としています。
これ以上の時間がたっていれば、鼻水や咳などが多少残っていても周囲への危険はほぼないと考えて構いません。出勤の可否などの参考にして頂ければと思います。
ただ、周囲の方全てがこの基準を理解している訳ではないので、念のため症状がある間はマスクをするなどして頂けると、余計な混乱を招かずに済むのではないかと思います。
一方、もし一緒にご飯に行った人がインフルエンザに感染していた場合は、いつまで感染を心配する必要があるのでしょうか?
前提として、その食事(接触)が発症より2日以上前なのであれば感染を心配する必要はありません。
発症1日前、あるいは軽い症状が出始めてから接触があったのであれば、感染のリスクがあります。
インフルエンザはウイルスに暴露されてから2,3日以内に発症すると言われていますので、少し余裕を持って接触4日後までに症状が出なければまず安心して頂いてもよいと思います。
(流行期には全く別の経路から知らないうちにインフルエンザに感染している可能性もあるので、いつインフルエンザを発症してもおかしくないということには注意しておいてください)
4.インフルエンザに罹ってしまった場合、生活面で気を付けることは?
一般的な風邪と一緒です。
安静にすること、睡眠や休養を十分にとることを心がけましょう。
さらに高熱時には、発汗だけでなく皮膚から蒸発する水分量も増えるため、思っている以上に水分を失っています。意識的に水分補給を行ってください。
食事には特に禁止物はありませんが、インフルエンザでは胃腸の症状が出ることもあるため、食べやすく消化の良い食事を摂りましょう。
また「風邪の時には入浴してはいけない」と日本では古くから言われていますが、実はこれには科学的根拠がありません。
少し症状が改善したり、一時的に解熱して体が楽になっている時には、さっとシャワーを浴びたり短時間湯船に浸かってスッキリしてもらうことに問題はありません(長風呂は体力を奪いますので避けた方が良いです。また風呂温度も少しぬるめにしておきましょう)。
入浴時には汗をかきますので、しっかり水分をとることも忘れないようにして下さい。
もちろん症状が強いときに無理に風呂に入る必要はありませんし、数日風呂に入らなくても死ぬわけではないのですが、汗をかいた後で気持ち悪かったり、匂いが気になる場合は入ってもらってもいいと思います。
5.インフルエンザの際に病院から処方される薬には2種類ある
インフルエンザの際に病院から処方される薬には「対症療法薬」と「抗インフルエンザ薬」の2種類が存在します。
「対症療法薬」の代表は解熱剤です。一般的にはアセトアミノフェンが処方されます。
その他、咳が強ければメジコンなどの咳止めが処方されますし、他に症状があればそれに応じた薬が出されるでしょう。
それぞれの薬はインフルエンザの辛い症状を緩和する効果がありますが、症状改善までの期間を短くする効果はありません。
一方、「抗インフルエンザ薬」はインフルエンザの増殖を抑える薬です。
この種の薬はウイルス量を減らすことで症状改善までの期間を1日ほど短縮します。しかし即効性はなく、飲み始めてもしばらくは症状が持続します。
また実感しにくい効果ですが、抗インフルエンザ薬は重症化リスクを減らすことも出来ます。重症化リスクが高い人は抗インフルエンザ薬の内服が推奨されています。
後編ではこの抗インフルエンザ薬について詳しく説明していきたいと思います。