インフルエンザの症状・検査・治療のポイント4~治療編(後編)~

目次

  1. はじめに
  2. オセルタミビル(タミフル)の特徴
  3. バロキサビル(ゾフルーザ)の特徴
  4. ザナミビル(リレンザ)の特徴
  5. ラニナミビル(イナビル)の特徴
  6. 抗インフルエンザ薬と異常行動との関連について
  7. 治療編のまとめ

1.はじめに

ついにこの連載も最終回となりました。

今回は抗インフルエンザ薬について取り上げます。

クリニックで使用する可能性のあるものに絞り、4種類の薬(タミフル、ゾフルーザ、リレンザ、イナビル)の特徴を説明していきます。

それでは、治療編(後編)です。

2.オセルタミビル(タミフル)の特徴

抗インフルエンザ薬としては最も古く、それだけに使用実績が最もある薬です。

多くの論文でのその効果や副作用について検討されており、医師としても使いやすい薬です。

使用方法は1日2回、朝夕食後に5日間内服します。カプセルや錠剤だけでなく、小児用のドライシロップも発売されています(ただし苦い)。

小児から大人まで広く使用可能ですが、小児に使う場合は成人とは少し量が異なりますので、大人用の薬を飲ませないように注意して下さい(特に体重37.5kg未満の場合)。

妊娠中でも使用できるかよく質問を頂きますが、妊娠初期(先天異常を生じるリスクが高い時期)にタミフルを内服しても先天異常の発生率が増加しなかったとする複数の報告がありますので、妊婦でも安全に内服することが出来ます。

むしろ妊婦はインフルエンザの重症化リスクが高いため、積極的に内服してもらった方が良いとされています。

タミフルとは関係ない話にはなりますが、お母さんがインフルエンザに感染したこと自体が赤ちゃんへ悪影響を与えないか気になる方もおられるかもしれません。脱線になるので結論だけ述べておくと、この懸念については複数の報告で「悪影響を与えない」ことが報告されていますのでまず安心して頂いて良いと思います。

それではタミフルの特徴に戻ります。

薬価も他の薬と比べると安価です。後発品もありますので経済的です。

有症状期間の短縮効果は他の薬と同等の1日前後です(報告によりばらつきがあります)。

副作用の頻度は低いものの、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸症状や蕁麻疹などのアレルギーが知られています。

一部のインフルエンザウイルス(A/H1N1型)はタミフルに耐性を持ち、薬が効きにくいことが知られています。ただしここ数年このタイプのウイルスは流行しておらず、2023-24年シーズンにおいても現時点で耐性ウイルスの流行は報告されていません。

日本は世界最大の抗インフルエンザ薬使用国ですので、耐性ウイルスの出現については国立感染症研究所が監視を行っており、こちらのページで一般にそのデータも公表されています。

また一時期、タミフル内服後の子供に異常行動が見られるとしてマスコミにセンセーショナルに取り上げられました。このためH19年~H30年にかけては10代の子供にはタミフルの使用が差し控えられていましたが、現在はタミフルと異常行動との因果関係はほぼ否定されています。これについては「抗インフルエンザ薬と異常行動」の項で別に詳しく取り上げたいと思います。

3.バロキサビル(ゾフルーザ)の特徴

他の抗インフルエンザ薬とは少し異なる機序でインフルエンザウイルスの増殖を抑える薬です。

最大のメリットは1回の内服で治療が終了することです。安全性も高く、タミフルと同等の効果が見込まれています。

ただ、この薬に関しては2つほど大きな問題があります。

第一の問題は、ゾフルーザの方がタミフルよりも有症状期間を短縮する効果が「高い傾向にある」と(主に製薬会社などが)宣伝されていることです。

しかしこれはアンフェアと言わざるをえません。

と言うのも、なぜ「効果が高い」ではなく「効果が高い傾向にある」なのか疑問に思いませんでしたか?

タミフルとゾフルーザの効果を比較した試験において、確かに有症状期間はゾフルーザの方が少し短かったのですが、この差は「統計学的に有意」と認められませんでした。簡単に言うと両者には誤差の範囲内の差しかなく、この試験を何度か繰り返すと逆の結果が出る可能性もあるということになります(CAPSTONE-1試験、CAPSTONE-2試験の結果より)。

このため、製薬会社は「効果が高い」とは言えないので、「高い傾向にある」という曖昧な言い回しで誤魔化しているのです。しかし本来は正直に「ほとんど差はないです」と言うべきじゃないでしょうか?

タミフルと同等の効果があれば、それで十分だと私は思うのですが・・・

第二の問題は、ゾフルーザを投与すると高率に薬剤耐性ウイルスが出現することです。

インフルエンザA(H1N1)患者を対象にして本剤を投与した第2相試験では2.2%に、インフルエンザA(H3N2)を対象とした第3相試験では9.7%に、そして12歳未満の小児を対象とした国内第3相試験ではなんと23.3%に耐性ウイルスの出現が報告されています。

経過中に耐性ウイルスが出現すると症状が遷延する可能性があります。さらにもし今後耐性ウイルスが流行するようになると、この薬の効果は失われてしまうでしょう。

このため日本小児学会、日本感染症学会は特に12歳未満の小児へはこの薬を使用しないように警告しています。

以上より、ゾフルーザを使いすぎると耐性ウイルスの流行を招く恐れがありますので、頻用するべき薬とは思えません。

また、副作用はタミフルと同様に吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸症状や蕁麻疹などのアレルギーが知られています。副作用の発生頻度自体は低く安全な薬ではありますが、1回の内服で長時間薬が体内に残存するため、アレルギーを生じた際には改善までに時間がかかるリスクがあります。

一回の治療に要する薬価はタミフルと比較すると倍程度と高くなります。

総合的に見ると良い薬だとは思うのですが、タミフル耐性ウイルスが流行した際など、ここぞという時にのみ使用する薬というのが私の評価です。

4.ザナミビル(リレンザ)の特徴

ここからは吸入薬2種を取り上げます。

リレンザは1日2回、5日間吸入する薬です。

日本で最初に発売された吸入タイプの薬になります。

タミフルと同等の有症状期間短縮、重症化予防効果が見込まれています。

小児でも使用可能です。

妊婦へも安全に使用できるとされていますが、論文数はタミフルよりも少ないことに注意が必要です(過去に私が調べた際は1本だけでした。今は増えているかもしれませんが、、、)。

特にインフルエンザB型に対してはタミフルよりも効果が高いとする報告もあります(あえて使い分ける必要があるかまでは分かりません)。

生じる可能性のある副作用はタミフルとほぼ変わらず、薬価もタミフルより少し高いくらいで比較的安価な薬です。

総合的な評価としてはタミフルと同等の良い薬と言えるでしょう。

ただし吸入薬であるため、気管支喘息の方に使用すると気管支の攣縮を起こす危険性があります。呼吸器に基礎疾患のある方には使用しない方が良いでしょう。

また、乳糖が含まれているため、乳製品にアレルギーのある人ではアナフィラキシーを起こす危険性があります。

5.ラニナミビル(イナビル)の特徴

イナビルは1回の吸入で治療が完結する薬です。

日本や台湾などの東アジアを中心とした臨床試験でタミフルと同等の効果が報告されています。

イナビルは特に日本国内では評価が高く、小児科などでは診断後に院内で吸入させることが多いようです。1回吸入で簡単に治療が終わるため患者さんからの評判も良いと聞いています。

しかし、ちょっと待ってください。

イナビルが本当に効果のある薬なのか、実は重大な疑義があるのです。

前述の東アジアでの研究結果を受け、欧米での発売を目指し海外12か国で実施された臨床試験では、なんとイナビルを使用した人達と効果のない偽の薬(プラセボ)を使用した人達の間で有症状期間が変わらなかったのです。

つまり「効果のない薬」という判定になってしまったわけです。この結果、欧米ではイナビルは認可されず、よってもちろん発売もされませんでした。

イナビル使用後とても楽になったという経験をした人もいるかもしれませんが、あなたはイナビルを使用しなくても楽になった可能性があります。

もちろん、これに関して製薬会社やイナビル押しの先生方は色々な説明(言い訳?)をしており、臨床試験で効果を示せなかった何か特殊な事情があるのかもしれません。

ただ、個人的にはこのような疑念がある薬を敢えて使う必要はないと思っています。

6.抗インフルエンザ薬と異常行動との関連について

タミフル内服後に異常行動(急に走り出す、高い所から飛び降りる)をとった子供の例がテレビで放送されたことがあり、タミフルの副作用ではないかと話題になりました。

しかしその後のインフルエンザに罹患した子供を対象とした調査により、

10代の子供で

タミフル服用中に異常行動を起こす頻度は100万処方あたり6.5人、

リレンザ服用中で4.8人、

イナビル服用中で3.7人、

いずれの抗ウイルス薬も服用していない子供で8.9人とされており、

タミフルの内服に関わらず異常行動は見られています。

このため、これらの異常行動は薬によるものではなくインフルエンザ自体による症状である可能性が高いと現在では考えられています。

インフルエンザを発症した場合、発熱から2日以内に、女児よりも男児で、特に睡眠から目が覚めてすぐに異常行動を起こしやすいとされています。

7.治療編のまとめ

  • 妊婦、小さな子供、高齢者、基礎疾患のある人がインフルエンザに罹患した場合は重症化するリスクがあり、抗インフルエンザ薬の内服が推奨される。
  • 重症化リスクのない人にとってのインフルエンザは1週間程度で自然に治る病気である。
  • インフルエンザ患者の感染性は発症の前日から3~7日後まで認められる。
  • インフルエンザ患者と接触した場合、感染していると2,3日以内に発症することが多い。
  • 抗インフルエンザ薬はインフルエンザの増殖を抑えることで、重症化を予防し、有症状期間を短縮する。
  • 抗インフルエンザ薬としてはタミフルないしリレンザを推奨する。

リンク