インフルエンザの症状・検査・治療のポイント2~検査編~
目次
1.はじめに
前回、症状編として、どのような時にインフルエンザの可能性が高いか述べました。
地域における流行状況、症状、身体所見を合わせてインフルエンザを疑う必要があることを説明したつもりです。
今回はみなさんが一度は受けたことがあるであろう検査、インフルエンザ抗原検査についての注意事項を述べていきたい思います。
2.インフルエンザ抗原検査を受けるタイミング
ここからは抗原検査について説明したいと思います。
みなさんはインフルエンザの抗原検査を受けたことはありますか?
私はあります。ですので、みなさんがアレを嫌がる気持ちもよくわかります。私も医療従事者でなければ鼻から綿棒を突っ込むような検査は出来るだけ受けたくありません。
そんなみんなが嫌いなあの検査ですが、熱が出てすぐには正しく結果が出ないことをご存知でしょうか?
これ、インフルエンザが流行するたびに救急外来やクリニック外来で私達医療従事者が口を酸っぱくして言い続けてきたことなのですが、どうもここ数年インフルエンザの流行がなかったためか、このことを忘れている方が多いように思います。
そこでもう一度、インフルエンザ抗原検査を受けるべきタイミングについて復習しておきましょう。
インフルエンザウイルスは発熱から12~24時間以上たたないと十分に増えないと言われています。ですので発熱から24時間の間は陰性結果の信頼性は低く、当院でも発熱から24時間程度時間を空けてから検査を受けることを推奨しています。
一方で、タミフルなどのインフルエンザ専用の薬が効果を発揮するには、発症48時間以内に飲み始める必要があるとされています。検査をする主な目的は結果が陽性の場合にインフルエンザ専用薬を飲むためだと思いますので、検査は発熱から48時間以内に受ける必要があります。 以上より、抗原検査を受けるベストタイミングは発熱から24時間以上48時間以内となります。
3.発熱から時間がたっていても検査を受けるべき?
では、発熱から48時間以上経過した場合は検査を受けなくても良いのでしょうか?
これには色々な意見があると思います。
ただ、これを考える際に忘れてはならないポイントとしては、インフルエンザなどの感染性の強い疾患への対応を考える際には、感染による「個人に対する影響」と「社会全体に対する影響」とを両方とも考える必要があるということです。
往々にして感染対策に関する議論が嚙み合わない主な理由は、論者がどちらか一方の影響しか考慮していないからではないでしょうか(新型コロナウイルスに対するネット上の不毛な議論を見ていると本当にそう思います)。
個人に対する影響のみを考えるならば、発熱48時間後にインフルエンザ抗原検査を受ける必要性は乏しいでしょう(結果に関わらず個人の治療方針が変わらないため)。
しかし社会に対する影響を考えてみると、感染を広げないという目的のためにはインフルエンザの診断を確定させた方が良いでしょう。学校への出席・会社への出勤を控えることが出来ればインフルエンザの流行をある程度抑制することが出来るはずです。
以上より、例え時間がたっていても、社会的には検査を受ける意味はあると思います。
また、抗原検査で陰性の場合はインフルエンザ以外の重篤な病気がないか精査する必要もありますので、やはり高熱が続く場合は一度医療機関を受診して頂きたいと思います。
4.抗原検査陰性を信じても良いのか?
次に結果の解釈についての注意事項を説明しておきたいと思います。
みなさんは抗原検査が陰性と告げられたらどう思いますか?
おそらく多くの方が「なんやインフルエンザやなかったんか。これで明日の予定が潰れずに済むわー、よかったー」と思われるのではないでしょうか?
しかし、実はそう単純な問題でもないのです。
というのも、抗原検査の精度はそれほど高くありません。
検査の精度を表す数値には感度と特異度があります。このうち特異度は検査が陽性の時の信頼性に、感度は検査が陰性の時の信頼性に関係します。インフルエンザ抗原検査の特異度は98%ですが感度は60%ほどしかありません。このため抗原検査で陽性であればほぼ間違いなくインフルエンザに感染している一方で、検査結果が陰性であっても感染している可能性がそこそこ残ってしまう、ということになります。
実は条件によっては検査が陰性でも5割以上の確率でインフルエンザに感染していることもありえます。本当はこれを数学的に証明しておきたいのですが、院内研修の際に私がスタッフにその説明をした際には全員から「わからん」と言われたので、この場では割愛して例え話で補足説明をしておきましょう。
推理小説で明らかに怪しい登場人物がアリバイを持っていたとしても、たった一つのアリバイを根拠にその人物を容疑者から外す探偵はいませんよね?同様にインフルエンザが非常に怪しい時に、たった一つの検査結果からそれを否定することは出来ないのです。
1つの検査結果だけではなく、地域における流行状況、患者さんの症候などを踏まえた総合的な判断が医師には求められています。
5.じゃあもう抗原検査は不要なんじゃない?
インフルエンザが流行している時に典型的な症状で受診した方の抗原検査結果が陰性であっても、その人は高率にインフルエンザに感染しています。
じゃあもう場合によっては検査せんでええやん、と思われたあなた、その通りです。
実際にインフルエンザの流行期には症状が典型的であれば検査をせずにタミフルを出すことが行われていました。
患者さんも嫌な検査を受けずに済み、医者や看護師も仕事を省略できて皆が満足でした。
しかし新型コロナウイルスの出現がこのような検査の省略を許さなくなっています。
インフルエンザの典型症状=コロナの典型症状なので、症状からインフルエンザの可能性が高いとは言いにくくなっているのです。
各患者さんがインフルエンザらしいのか、新型コロナらしいのかは、その時々の流行状況に合わせて判断するしかありません。
さらに新型コロナウイルスの流行拡大スピードは非常に速いので、インフルエンザが流行していると思って検査を全くしないままでいると気付けば流行の主体が新型コロナウイルスに置き換わっている、なんて可能性もありそうです。
というわけで、現状ではインフルエンザが疑わしい人には、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの検査を両方ともせざるをえないと思います。
6.症状編と検査編のまとめ
- 48時間以内の急な高熱、悪寒や発汗、筋肉痛、37.8度以上の熱と咳、などの症状があればインフルエンザの可能性が高い。ただし地域における感染症流行状況を考慮する必要がある。
- インフルエンザ流行期に、後咽頭にイクラ状の濾胞が見られる場合、インフルエンザの可能性が高い。
- 抗原検査は発熱から24~48時間以内に受けるのがベスト
- 抗原検査陰性であっても、インフルエンザが大流行していたり症状がインフルエンザに典型的である場合には、インフルエンザを否定することが出来ない(検査をする前よりも可能性は低くなるが、条件によっては検査が陰性でも5割以上の確率でインフルエンザに感染していることもある)。診断は総合的に行う必要がある。