麻疹の症状、合併症、診断、予防について

はじめに

 麻疹と書いて「ましん」や「はしか」と読みます。一般的には「はしか」と言った方がわかりやすいかもしれません。

 麻疹は先進国においても1000人に1人が死亡する怖い感染症です。

 国内においてはほぼ根絶されたものの、海外においては流行が続いており、十分な予防接種を受けていない方が海外に行かれた際に感染し、帰国後に発症することが続いています。

  過去に感染したことがないか予防接種を受けたことがない方が感染者と接触すると、高率に感染・発症してしまいます。

 最近国内における麻疹患者の発生が相次いで報道されており、不安を感じた方からの問い合わせも増えているため、本記事を執筆しました。

*注1 主に思春期以降の方を対象に書いています。

*注2 国立感染症研究所、厚生労働省、一般社団法人日本ワクチン産業協会などのホームページを参考に記載しています。

どんな症状が見られるのか

 麻疹患者さんと接触し、ウイルスをもらってから約10日後に発症します。

 このため海外で感染した場合も、発症するのは帰国してからのことが多いと言われています。

 始めは一般的な風邪の症状で発症します。

 38度前後の発熱、咳、鼻水、喉の痛み、結膜炎(充血)などの症状が2~4日程度続きます。

 発症後3,4日目ごろになると、一旦熱は37度程度に下がります。

 しかし半日程度で今度は39.5度を越えるような高熱が出現するようになります。

 この一度下がってからもう一度高熱が出るという熱の出方は麻疹に特徴的なもので、二峰性発熱と呼ばれます。(麻疹で多く見られますが麻疹以外の病気でも見られるため、これだけで診断できる訳ではありません)。

 高熱は4日ほど持続します。

 また2回目の発熱と同時に発疹が出現します。

 はじめは耳の後ろから首、おでこなどに出現し、2日ほどかけて全身に広がります。

 風疹では初めに熱が出ると同時に発疹が出現することが多く、発疹のタイミングから麻疹と風疹を見分けることも出来ます。

 発疹は初め赤く平坦ですが、しだいに周囲皮膚より盛り上がるようになり、周囲の発疹と融合して不整形の斑状になってきます。その後徐々に暗赤色となって、出現順に退色していきます。

 この間も咳や鼻水などの風邪症状は持続します。また発疹が出現する前後1~2日の間には、頬粘膜に白い小さなブツブツが見られることがあり(コプリック斑)、診断の手がかりになります。

 高熱と発疹、強い風邪症状が4日ほど持続すると、熱は下がってきます。

 発疹の退色も続き、色素沈着がしばらく残りますが徐々に消えていくことが多いとされています。

 咳は少し長引きますが、合併症がない限り症状出現から10日ほどで回復していきます。

麻疹の合併症とは

 麻疹による死亡の多くは合併症によるものです。

 合併症の約半数が肺炎であり、腸炎、中耳炎、頻度は低いものの脳炎などが知られています。

 麻疹発症後には一時的に強い免疫抑制状態になることが知られており、このため細菌感染症を高頻度に合併すると考えられています。

 死亡の原因となることが多いのは肺炎と脳炎であり、乳児死亡例の60%は肺炎によりますが、思春期以降の死亡は脳炎によるものの方が多いとされています。

 以下に個々の合併症について簡単に解説します。

 肺炎は麻疹患者の6%に認められます。主に病初期に見られるウイルス性肺炎と発疹出現後に見られる細菌性肺炎とに分けられます。細菌性肺炎であれば抗生物質で治療を行いますが、ウイルス性肺炎の場合は特異的な治療はありません。

 脳炎は1000人に0.5~1人の頻度で認められます。発疹出現後2~6日ごろに発症します。60%は完全に回復しますが25%の人に後遺症(痙攣や麻痺など)を残し、15%の方が死亡する重篤な合併症です。特異的な治療法はなく、発症した場合は対症療法しかありません。また、麻疹罹患後4~8年ほどして知能障害、運動障害などを生じる亜急性硬化性全脳炎という合併症も存在します。幼児期に感染した場合に生じることが多いとされていますが成人で発症する場合もあります。

 中耳炎は最も多い合併症で、麻疹患者の約7%に見られます。一般の中耳炎と同様に細菌感染によって生じるため、抗生物質を中心とした治療が行われます。

診断について

 特徴的な熱の経過、頬粘膜のコプリック斑、2回目の熱に一致した発疹の出現があれば、臨床的に麻疹を強く疑うことが出来ます。

 ただし風邪症状のみがみられる初期に麻疹を疑うことは困難です。

 特に日本では積極的なワクチン接種により土着株が根絶された状態ですので、麻疹は稀な感染症です。風邪症状で受診された方にいきなり麻疹を疑う医者は少ないと思います。

 診断確定のためには抗体検査、PCR検査が行われます。

 抗体検査では麻疹に対するIgM抗体、IgG抗体の力価を調べます。

 発疹出現後4日~4週間以内であればIgM抗体が高率に陽性になります。通常採血後数日で結果が判明します。

 IgG抗体は発症早期には上昇してこないため早期診断には用いられませんが、回復期のIgG抗体価が急性期と比較して有意に上昇していれば、麻疹の診断をより強く支持することになります。

 PCR検査は1日で診断可能で、IgM抗体検査よりも精度が高く有用です。

 ただし保健所を介して地方衛生研究所に提出するため、クリニックから保健所へ連絡をとらなければなりません。また咽頭拭い液、血液、尿の3検体を提出する必要があります。

 これらの検査を併用することで麻疹は診断されます。

予防はワクチンが重要

 麻疹は空気感染するため、手洗いやマスクでは予防できません。

 麻疹に対する免疫を持たない人(過去に感染したことがなく、ワクチンを打ったこともない人)が麻疹患者と接触すると、高率に感染します。

 その感染力はウイルスの中で最も強いとされ、麻疹患者さんと同じ部屋にいるだけで感染します。

 麻疹ウイルスに対する特異的な治療はないため、ワクチンによる予防が最も有効です。

 感染する前にワクチンを打っておくことが基本ですが、麻しんの患者さんに接触してから72時間以内に麻疹ワクチンを接種することでも、麻しんの発症を予防できる可能性があるとされています。

 ワクチンを1回接種するだけで95%の方が十分な抗体を得られますが、5%の方には感染のリスクが残ります。

 ワクチンを2回接種すると97~99%の方に十分な抗体が見られるようになるため、基本的には2回接種が推奨されています。

 当院では成人の方で何度もワクチンを打ちたくないという場合は1回接種後2カ月ほどして抗体検査を受けることをお勧めしています。抗体価が十分でない場合はもう一度ワクチンを打って下さい。

 現在日本国内で一般的に使用されているワクチンは麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)です。

 麻疹単独ワクチンは日本国内では製造されていません。

 MRワクチンは弱毒化したウイルスを接種し、軽い感染状態を作り出すことで麻疹と風疹に対する免疫をつけるものです。ですので、1回目の接種の際には接種後1~2週間ほどで微熱や軽い発疹などの副反応が出ることがあります(麻疹や風疹の症状を数十倍に薄めたような症状です)。

 2回目の接種ではこれらの副反応はほとんど出ません。

 また、ワクチン接種により肺炎や脳炎、亜急性硬化性全脳炎などの合併症を生じることはありません。

世代ごとのワクチン接種状況

 麻疹を予防するにはワクチン接種が大事です。ワクチン未接種の方はあなた自身と周囲の人を守るため、是非ワクチンの接種を検討して下さい。

 しかし自分がワクチンを打ったことがあるのか分からない、という方もおられると思います。

 参考までにこれまでの日本における麻疹ワクチン定期接種の扱いがどう変遷してきたか、それにより各年代に産まれた人のワクチン接種状況がどのようになっているのか記載しておきます。

 

1972年9月30日以前生まれの方

 1回も接種していない可能性が高い世代です。

 ただし麻疹の流行が繰り返されていた時代ですので、自然感染により免疫を獲得している可能性も十分あります。

 過去に麻疹に感染していたか不明な場合は、抗体検査によって十分な免疫を持っているか確かめることをお勧めします。

 

1972年10月1日~1990年4月1日生まれの方

 1回しか接種していない可能性が高い世代です。

 免疫を十分に持っていない可能性があります。

 抗体検査で免疫を確認するか、追加でワクチンを接種されることをお勧めします。

 

1990年4月2日~2000年4月1日生まれの方

  特例措置として2回目の接種を受ける機会のあった世代です。

 ただし接種率はそれほど高くありませんでしたので、十分に免疫を持っておられない方も一定数おられる可能性があります。

 2回目の接種を受けていない、あるいは分からない方は、抗体検査で免疫の有無を確認されるか追加でワクチンを接種されることをお勧めします。

 

2000年4月2日以降生まれの方

 定期接種として2回接種を受けている世代です。

 もし合計2回の接種を受けておられないようなら、抗体検査で免疫の有無を確認されるか追加でワクチンを接種されることをお勧めします。