「ここまでわかる!胃カメラ・大腸カメラ・腹部エコー」シリーズ 第12回 進行大腸癌

注意事項1:本シリーズで取り上げる画像は全て当院で撮影したものです。検査画像の利用については、内視鏡検査前のアンケートで利用の可否を確認しています(腹部エコー検査に関してはオプトアウト方式をとっています)。

注意事項2:患者様の善意によって成り立つ投稿です。本シリーズは疾患の啓発や若手医師の研鑽に役立つことを目的としています。画像の無断利用、転載は固くお断りします。削除依頼に応じて頂けない場合は法的手段を取ります。

画像解説

こちらは進行した大腸癌の写真です。2枚の写真は同じ病変を別方向から写したものになります。ここまで大きいと見過ごすこともなく、診断も容易で画像自体にはそれほど解説するようなポイントはありません。かなり大きな腫瘍ですが、内腔が保たれているためほぼ無症状で、検診(便潜血検査陽性)を契機として見つかりました。

便潜血検査の意義を考える

日本では大腸がん検診として便潜血検査(2日法)が用いられています。

大腸癌の表面が便と擦れるとジワッとした出血が見られることが多く、この出血を検出することで大腸癌を見付ける検査になります。

まずは数字でこの検査の有効性を調べてみましょう。

日本からの報告では、便潜血検査を毎年受けている集団では大腸癌による死亡が60%も減るとされています(日本で用いられている免疫法の効果を症例対照研究によって見積もった結果)。ただ、これは研究デザイン的にちょっとテクニカルなので、欧米からの報告(化学法による効果を無作為化比較対照試験で見積もった結果)も参考にすると、毎年便潜血検査を受けることにより、対象集団における大腸癌死亡率を33%減らすことが出来るとされています。

研究デザインが異なるので両者を一概に比較することは出来ませんが、少なくとも大腸癌で亡くなる人を大きく減らすことが出来る検査であることは間違いありません。

一方、自治体が実施する便潜血検査の結果を厚労省がまとめた2019年の報告によると、検診を受けた人のうち便潜血検査が陽性となる人(2日法のうち、どちらか片方だけでも陽性となる人)は約6%、そのうち精密検査(大腸カメラ)を受けた人は7割ほど、陽性者全体のうち大腸癌が見つかった人は約2.8%となっています。つまり1万人が便潜血検査を受けると600人が陽性となりますが、結果を受けて内視鏡検査を受ける人が420人、結果を無視する人が180人、大腸癌が見つかった人が17人いることになり、便潜血検査陽性の人が大腸内視鏡検査を受けると17÷420×100=約4%の確率(25人に1人)で癌が見つかることになります。

以上の内容を踏まえてお伝えしておきたいことは

  1. 便潜血検査を毎年受ける「集団」では大腸癌が早期に見つかるため、全体としての死亡率は確実に低下します。
  2. ただし便潜血検査陽性の人の中には痔の人や前癌病変である大腸ポリープの人も含まれており、陽性であっても必ずしも癌が見つかる訳ではありません。(実際に癌が見つかる可能性は4%ほど)
  3. ただし25人に1人というのは癌のハイリスク群としてはかなり高い確率であり、本当に癌であった場合の重大性を考えると「便潜血検査が陽性の場合は必ず内視鏡検査を受けるべき」です。
  4. 便潜血検査は「大腸癌の危険性が高い人達を見付ける検査」であり、「大腸癌を診断する検査」や「大腸癌を否定する検査」ではありません。便潜血検査が陰性の人の中にも大腸癌の方は一定数おられます(かなり低い確率ですが)。
  5. あなた個人の大腸癌リスクを便潜血検査で見積もることは困難です。個人的には40歳を越えたら一度は大腸内視鏡検査を受けてポリープがないか確認することをお勧めします。(ポリープがあれば大腸癌の高リスクと考えて定期的なフォローを受けるべきです)