「ここまでわかる!胃カメラ・大腸カメラ・腹部エコー」シリーズ 第11回 急性虫垂炎(腹部エコー)
注意事項1:本シリーズで取り上げる画像は全て当院で撮影したものです。検査画像の利用については、内視鏡検査前のアンケートで利用の可否を確認しています(腹部エコー検査に関してはオプトアウト方式をとっています)。
注意事項2:患者様の善意によって成り立つ投稿です。本シリーズは疾患の啓発や若手医師の研鑽に役立つことを目的としています。画像の無断利用、転載は固くお断りします。削除依頼に応じて頂けない場合は法的手段を取ります。
画像解説
虫垂は盲腸からぶら下がっている細い袋状の臓器です。
正常ではエコーで同定することは困難ですが、虫垂炎を起こすと腫大するためエコーで見えやすくなります。ただし虫垂の位置には個人差があり、大腸の裏側など見えにくい場所にある場合はエコーでは分かりにくいこともあります。
一般的には虫垂は腸腰筋の前面で見つかります。慣れない間はエコープローブを水平にして、大動脈から総腸骨動脈を追っていくと、腸骨動脈・腸骨静脈の断面が2つ並んだ横に腸腰筋が見えます。その前面で虫垂を探してください。画像ではコンベックス型で観察していますが、一般的にはリニア型のプローブの方が腸管の観察に適していると言われています(私は持ち替えるのが面倒でコンベックスのまま全体を観察していることが多いのですが、見にくい時は切り替えています)。
ただし回腸末端も虫垂と似たような感じで見えます。虫垂炎を疑った場合は必ず盲端になっていることを確認しましょう。(虫垂の先の方が骨盤内に落ち込んでいると、盲端かどうか悩むこともあります)
虫垂が見えている状態で、エコープローブでお腹を圧迫して痛みがあればより診断は確かになります。ただしプローブを斜めにしていると画像で見えている場所と圧迫している場所にずれが生じやすいので注意が必要です。
プローブを90度回転させると、下の写真のように虫垂の断面を見ることも出来ます。
虫垂炎の診断について
虫垂炎は腹痛を起こす病気の中でも比較的有名な病気です。俗に「盲腸」と呼ばれますが炎症を起こしているのは「虫垂」であって「盲腸」ではありません。なぜこんな俗称が広まっているのか私もよく知りませんが、昔は「盲腸」が炎症の主体と考えられていたのでしょうか?同じような医学的には間違っている俗称は意外と多く、医療従事者と患者さんとのミスコミュニケーションの原因になることもあります。
さて、誰もが知っている病気の虫垂炎ですが、診断は意外と難しい病気でもあります。この原因は以下の2つです。
- 虫垂炎の症状は時間とともに変化する。
- 虫垂炎と同じような症状を呈する病気は他にもたくさんある。
まず1についてですが、典型的な虫垂炎の経過をご紹介します。まずは軽い食欲不振から始まります。数時間から半日くらいして、徐々にみぞおち辺りに重いような感じや痛みが出現してきます。軽度の吐き気を自覚したり、軟らかい便が出ることもあります。さらに時間が経つと、みぞおちの痛みは右下腹部に移動していきます。症状が悪化すると最終的に発熱が見られます。そのまま放置すると右下腹部の痛みはどんどん悪化しますが、ある瞬間に痛みが消えることがあります。ただ、これは治った訳ではなく、パンパンに膨らんだ虫垂が破れて中に溜まっていた膿が外に漏れ出たために「虫垂の壁が引き延ばされることによる痛み」がなくなっただけです。このあとすぐに腹膜炎による激痛が出現してきます。ここまでくると緊急手術が絶対に必要になります。
これらの症状が全て揃うことは稀ですが、「虫垂炎のマーチ」と言って、①食欲の低下②みぞおち辺りの痛み③吐き気④右下腹部の痛み⑤発熱は必ずこの順に出現します。いずれかの症状がなかったとしても、みぞおちの痛みの前に発熱が見られたり、右下腹部の痛みの後にみぞおちが痛くなったりすることはありません。順番が一致しない時は虫垂炎以外(腸炎や憩室炎など)を疑うべきです。逆に①~⑤の症状が全てこの順に揃っているようなら、エコーで診断がつかなくても虫垂炎を強く疑ってCT等の精密検査を実施する必要があります。
次に2ですが、特に初期の虫垂炎は腸炎と見分けがつきにくいことがあります。症状が進行して右下腹部の強い痛みと発熱が見られているような状態であれば多くの医師が診断に迷うことはないのですが、みぞおちの痛みや吐き気だけの状態で虫垂炎の診断を下すことは簡単ではありません。この場合もお腹全体を圧迫してみると、みぞおちを圧迫してもそれほど痛みはないのに右下腹部に圧痛が見られることがあり、こういった身体所見を手掛かりに虫垂炎を疑う必要があります。