ピロリ菌に感染すると
ピロリ菌に感染すると、胃粘膜には慢性的な炎症が生じ、潰瘍や癌が生じやすくなります。意外なことに胃以外の病気(例えば血小板が減少する特発性血小板減少性紫斑病など)も起こりやすくなると言われています。特に胃癌とピロリ菌との因果関係は様々な研究により証明されており、ピロリ菌を除菌することで将来胃癌になる確率を大きく低下させることが出来ます。
ピロリ菌が関係する主な疾患
- 慢性胃炎
- 萎縮性胃炎
- 胃潰瘍
- 十二指腸潰瘍
- 胃がん
- 胃MALTリンパ腫
- 特発性血小板減少性紫斑病 など
胃内視鏡検査によるピロリ菌検査
ピロリ菌の検査方法には、胃内視鏡を用いるものと、用いないものがあります。前者については下記の方法があります。
- 培養法
- 採取した胃粘膜をすり潰し、5~7日間かけて培養して調べる方法です。
- 迅速ウレアーゼ法
- ピロリ菌に存在するウレアーゼという酵素が生成するアンモニアの有無から判定する方法です。
- 組織鏡検法
- 胃粘膜の組織をヘマトキシリン・エオジン染色やギムザ染色し、顕微鏡でピロリ菌の有無を観察する方法です。
内視鏡検査を用いないピロリ菌検査
- 尿素呼気試験
- 呼気に含まれる二酸化炭素の量を測定することにより、ピロリ菌が存在するか否かを測定するものです。最も精度の高い(感度・特異度の高い)検査で、当院でも実施可能です。治療によってピロリ菌が消失(除菌)したかどうかを判定するには、この尿素呼気試験を行う必要があります。
- 便中抗原測定
- 便を採取し、抗体の原因成分であるピロリ菌の有無を調べる方法です。
- 尿中抗体測定
- 尿検査によって、尿に含まれるピロリ菌の抗体の有無を診断する方法です。
除菌について
上記の検査によってピロリ菌の存在が確認された場合、必要な除菌治療を行うことになります。具体的には、胃酸の分泌を抑制する薬剤と、2種類の抗生物質を1週間ほど服用して除菌いたします。
肝炎
肝炎とは
何らかの原因により肝臓の細胞がたくさん壊れてしまう状態を肝炎と呼びます。短期間で大量に壊れる状態を急性肝炎、数年から数十年に渡り少しずつ壊れていく状態を慢性肝炎と呼びます。
一般に慢性肝炎は自覚症状に乏しく、健康診断などの血液検査で異常を指摘され見つかります。症状の軽さから一見すると軽症に見えるのですが、慢性肝炎が持続するとやがて肝硬変となり、腹水・肝性脳症・静脈瘤破裂・肝癌などが問題になります。一度肝硬変になるとそこから元には戻らないので、慢性肝炎の状態のうちに適切な治療を実施する必要があります。慢性肝炎の原因にはB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、アルコール、免疫異常などが知られています。
一方急性肝炎では急激な肝細胞の破壊を反映して、黄疸・倦怠感・食欲不振・軽度の腹痛などが生じることがあります。急性肝炎の原因で一番多いのはウイルスです。A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス、EBウイルス、HIVなどが急性肝炎を起こすことがあります。ウイルス以外ではアルコール、薬剤などが原因となります。多くのウイルス性急性肝炎は一過性のもので、症状や検査所見の派手さの割に数週間以内に自然治癒します。ただし一部の方では劇症肝炎と呼ばれる重症肝炎に進展することもあり、万が一劇症化した際にすぐに対応できるように、急性肝炎の多くが入院で治療されます(完全に治癒しなくても劇症化のリスクが乏しくなれば退院です)。
一口に肝炎と言っても急性肝炎と慢性肝炎は全く異なる病態です。肝炎について書かれた情報を見る際は、それが急性肝炎について書かれたものか、慢性肝炎について書かれたものかに注意して下さい。
急性/慢性B型肝炎
B型肝炎ウイルスは、ウイルスに感染している人の血液や体液を介して感染します。主な感染経路として、母子感染や後天性の性的接触、輸血、刺青、針刺し事故などがあります。
幼少時にB型肝炎ウイルスに感染した場合、成人してから慢性肝炎を発症することがあります。ただし国内では母子感染防止策がしっかり行われており、年々患者数は減ってきています。さらに近年は強力な抗ウイルス薬が出現したため、慢性肝炎の多くの方でウイルスの活動を抑え込むことが出来るようになりました。一方で大人になってから感染した方は典型的には急性B型肝炎を発症します。一部の方(数パーセント)では劇症肝炎と呼ばれる重篤な状態になることがあり、救命のためには肝移植が必要になることもあります。ワクチンにより高い確率でB型肝炎ウイルスの感染を予防できるため、お仕事で小さな子供と接することの多い方や、他人の血液に触れる危険性のある方はワクチンを接種しておいた方が安全です。成人してからB型肝炎ウイルスに感染した場合は、慢性肝炎に移行する可能性は低い(5%程度の確率)と言われています。
近年問題となっているのはB型肝炎ウイルスの再活性化です。B型肝炎ウイルスにかかって治癒した方に抗がん剤や免疫抑制薬を投与すると、一部の方で体内に潜んでいたB型肝炎ウイルスが再活性化し重篤な肝障害を引き起こすことがあります。そこで現在は免疫を抑制するような治療の前にB型肝炎ウイルス感染の既往を血液検査で調べ、必要な場合には予防的に抗ウイルス薬を投与することになっています。しかしこの事実を知らない、あるいは軽視している医者も存在しており、ご自身がB型肝炎ウイルスに感染したことがあるかどうか把握しておき、必要な場合は自己申告することが重要です(知らない間に感染していることもあります)。血液検査で簡単に調べることが出来ますので、気になる方は一度当院を受診して下さい。
慢性C型肝炎
C型肝炎ウイルスは感染している人の血液や体液を介して罹患する病気です。感染することにより、慢性肝炎や肝硬変、肝がんへと進行するケースがあるので、継続的に検査を受けて頂く必要があります。
かつて私が医師になった頃のC型肝炎の治療は、半年以上に渡りインターフェロンの注射を続けなければならない辛いものでした。副作用の多さから治療を続けられなかった患者さんも多く、また頑張って治療を受けたにも関わらずウイルスが消えずに落胆された患者さんを見て申し訳ない気持ちになったことをよく覚えています。
しかし現在慢性C型肝炎は高率に治癒する病気になりました。慢性C型肝炎の治療は、ここ10年の消化器内科領域の中で最も劇的に進化した領域と言えます。現在は内服薬を2~3ヵ月継続するだけで、100%近い確率でウイルスが消えます(例えば臨床試験における「マヴィレットのウイルス学的著効率は99%、投与された229人中226人が治癒という凄まじいものでした)。しかも副作用もほとんどありません。治療費が高額であることが唯一と言ってよい問題ですが、公的な補助があるため患者さんご自身の負担額はそれほど高くありません。現在は慢性C型肝炎にはインターフェロンを用いた治療は推奨されていません。
脂肪肝/非アルコール性脂肪肝炎
かつて脂肪肝は放置しておいても構わない害のない病気であると考えられていました。C型肝炎やB型肝炎があまりに派手な病気であったため、脂肪肝は過小評価されていたとも言えます。しかし薬の進歩によってウイルス性肝炎を抑え込めるようになると、脂肪肝が原因としか考えられないような肝硬変、肝がんが多く見つかるようになりました。大規模な研究が行われた結果、どうも脂肪肝の中には、放置しても問題のない群と、激しい炎症を引き起こして肝硬変や肝細胞がんの原因になる群の2グループが存在することが分かってきました。後者を「非アルコール性脂肪性肝炎」と呼びますが、「たちの悪い脂肪肝」もあると覚えてもらえれば十分です。この「たちの悪い脂肪肝」を確実に見分けるには肝生検という痛い検査を入院で行うしかないのですが、血液検査でもある程度見分けることが出来ます。特にAST(GOT)やAPT(GPT)が基準を越えて上昇している場合は「たちの悪いやつ」の可能性が高くなります。
また、脂肪肝は生活習慣病の一部になりますので、高血圧や糖尿病を合併している方も多くいます。脂肪肝だけを治療するのではなく、生活習慣病全体を治療する中で脂肪肝も改善させる必要があります。
薬物療法の効果が出にくい病態であるため、食事療法・運動療法が重要です。
脂肪肝を指摘された方は、是非一度お近くの消化器内科を受診して下さい。
- 院長
- 木村 佳人
- 診療内容
- 内科、内視鏡内科、消化器内科
- 住所
- 〒663-8107
兵庫県西宮市瓦林町1-21
KBクリニックビル1F - アクセス
- 西宮北口駅から徒歩15分、甲子園口駅から徒歩13分、瓦木支所前(阪急バス)下車すぐ